夜光


 生暖かい風と、時より冷たい風に中り、照らされた夜光を見ます。煙草を飲み、思いの丈を手帖に綴り、ただただ無心になりました。


「自我の確立がなされていない」
「自我が未熟である」
 そんな心理検査の結果を熟慮するうちに、これからの将来の生活に不安を覚えるのは当然のことながら、一生のうちで一体何をすべきだろうかと黙考していました。


 自我の確立とは、一体何ぞや。
 健康な人ならば、思春期を越えた辺りで「自我の確立」など容易に経ている一般的な過程にもかかわらず、私にはそれがない。しかるに、ここに全ての困難性が由来するわけです。対人能力においても、感情の処理においても、普通に出来る事が出来ない。かつ、この問題は、当人にとって重大な課題でありながら、他人が教唆したり示唆したりできない代物です。実に厄介です。


 夜光に照らされた波間を見ているうちに、自分の殻の中に閉じ篭ってしまいたい衝動に駆られます。
 自分の価値観や物の見方を護持したい欲求に駆られます。
 同時に、それを避けて通っていては課題が解決しないことも十分に理解できる今、葛藤だけが厳然として存在する事が何より口惜しいところです。