【本】心にナイフをしのばせて

FutabaUniv2006-10-27



心にナイフをしのばせて

心にナイフをしのばせて



酒鬼薔薇聖斗は覚えていらっしゃるでしょうか?
当時小学生だった被害者の首を校門で晒すという、凄惨で残虐な事件。
それより28年前の1969年。
『少年A』が当時高校一年生だった同級生の首を切断し、殺害する事件がありました。


川崎市の北部、鷺沼や向ヶ丘の近くにサレジオ高校というミッション系の学校があります。
今でも進学校として地元で有名な高校ですが、別の意味でも有名な高校です。
学園紛争が記憶に新しい団塊世代の方ならご存知かも知れませんが、その昔殺人事件があったのです。
のどかな田園風景の中で高校生が殺害される。


『少年A』は裕福な家庭に育ち、祖父の築いた莫大な資産の下で不自由なく育ち
被害者は会社員の家庭に育ち、あまり裕福とはいえない環境。
『少年A』の家庭環境が要因なのか、本人の精神が異常なのか。
被害者をメッタ刺し首を切断する凶行に走ります。
さらに『少年A』は自らの左肩をナイフで傷つけ偽造工作までするのです。
あたかも自分も暴漢にやられた被害者だと思わせるために。


事件後、被害者家族は家庭崩壊の危機に瀕します。
母親は寝たきりとなり、妹も精神状態が危うくなります。
父親は会社を辞め、その後病気で命を落します。
事件の話題を避け続け、ひたすら記憶を清算しようと被害者家族。
元々貧困な一家は小さな喫茶店で頑張っていました。


驚くべきは『少年A』のその後。
少年院送致となった彼は出所後、某有名大学を出て何と弁護士となり社会復帰を果たします。
今や地元では知られた名士。
名声と肩書きを手にいれただけでなく、裕福な資産まで手にしたにもかかわらず
被害者に謝罪もせず、慰謝料も払わず、反省もせず。
むしろ経営が傾いた被害者家族に対して
「金に困ってるなら貸してやる、実印と印鑑証明を持ってこい」
「何で俺が謝るんだ」
少年法に守られ、法律によって自らを正当化する『少年A』の姿がそこにありました。


加害者は見事な社会復帰を果たしたかもしれません。
しかし、被害者はどうでもいいのでしょうか。
少年法に記された保護精神は戦災孤児に対して定められていたものです。
一方的な視点で描かれてはいるものの、少年法の精神について考えさせられる本でした。


※画像は適当。
私信はありません。