人を評価するとき

 11時〜15時は、どうも昔の嫌な記憶を思い出してしまいます。


 その大抵は、自分が関わった事のある“気持ちの悪い人間”に関するもので、例えば大学時代の化学の教授であったり、職場の上司や研究者であったり、私の前主治医であったりします。頭の良さに託けた不遜な人々です。


 そんな私の頭に記憶されている“気持ちの悪い人間”リストには、近所の釣具屋の店主も入ります。以下は、私が小学生だった頃の話です。


 この店主、店の中を見回していると「何も買わねぇなら帰れ!コノヤロー!」とすぐに怒鳴るので、近所では評判の悪い店でした。
 ある日の午後、仲間数名と店内に入り、いつもの様に怒鳴られながら品物を探していた時のこと。店主が私を呼ぶではありませんか。
 「お前、その竿遊んで壊したんだろう。ちょっと、こっちに来い」
 遊んで振り回し、伸びきったままになった私の釣竿。恐る恐る店主に渡すと、店主は小道具を取り出してあっと言う間に直してくれました。そして、店主はこう言ったのです。
 「これからはちゃんと大事に使えよ」
 店主の顔は、実に優しい笑顔でした。


 人に対しては、多面的に評価軸を置かなければ、正確に評価することは出来ない。
 しかしながら、私を含めた大多数の人間は一面で評価し、また評価されている。


 人生のなかで“気持ちの悪い人間”と出会うことは避けて通れません。しかし、この店主の存在が、私にとっては唯一の救いだったと思えてなりません。